最近、精神障がいの当事者の方々やご家族向けの本を見ていると、よくWRAP(元気回復行動プラン)についてお勧めしている記事を見かけるようになりました。
精神看護という雑誌でも連載されてもおり、専門職にとっても一般的になってきていますね。
実践者のお話を聞いてみると
- 「WRAPをやり始めたら元気になってきた~」
- 「WRAPを始めたら、自分で自分のことがわかるようになってきた~」
といった声も多く、それを聞いた支援者やご家族の方々がぜひこの人にもやってみてほしい!と感じることもあります。
しかし、WRAPは家族や専門職が作るものではなく、当事者本人が自主的につくって実践することがとても大切です。
そこに、意味があります。
というわけで今回は
- 本人の代わりにWRAPを作ってあげてもいいかな?
- 身近な人にWRAPをオススメしたいけどどうしたらいい?
そんな疑問について、私なりの考えをお話しさせていただきます!
「これが正解」というわけではありませんので、ひとつの意見としてお聞きくださいね。
このページの目次
WRAPは本人が作るもの
まず、前提としてWRAPは
「自分の取扱説明書」
つまり、作りたい!と思った本人のためにあるツールです。
自分のために創意工夫を繰り返しながら実践していくツールです。
- 「数時間で作り上げて完成!」
というよりは
- 「日々生活する中で、自分にあった説明書を作り替えて更新していく」
といった感じ。
そして、他の誰でもない
「自分で作る」
っていうことが大事なポイント。
だって、自分の気持ちや考えは、
- お母さんお父さんでもなく、
- 彼女・彼氏でもなく
- お友達でもなく
- お医者さんでもなく
- 支援してくれるスタッフでもなく
他の誰でもない自分の心や頭の中で浮かんでくるものです。
- 何が好きとか
- 何が嫌いとか
- どういう場所が心地いいとか
- 誰と一緒にいると元気が出るとか
そういう感覚って、本人にしかわからないでしょ。
WRAPはそういう自分の「心地よさ」に素直になって形に変えていくもの。
なので、他の誰でもない、ご本人が作ることが大切なのです。
WRAPを本人に作ってもらうには
とはいえ、ご本人を近くで献身的に支えているご家族や、支援者であれば
「○○さんならWRAPを使うともっと元気になれるんじゃないかな」
と当事者の方を思って勧めたくなる気持ちがわいてくることもあるはず。
その気持ち、とてもよくわかります。
私自身も、普段生活をしていて、
「この方がWRAPを使ってみたら、よりイキイキとした生活につながるかもなぁ」
と感じることがたびたびあります。
そういったときにどのように本人にWRAPについて伝えていくと良いのか。
大事にしていることは
「自分が感じているWRAPの良さを伝える。
でも無理には勧めない」
ということです。
WRAPのキーコンセプトにも入っていますが、自分らしく生活していく人であれば、どんな選択も「自己責任」が大切です。
わかりやすく言いかえると、
- 「人に勧められたから『仕方なく』やってみる」
ではなく
- 「人に勧められて『やってみたいなぁ』と感じたからやってみる」
が大切ってこと。
WRAPの魅力を本人に伝えるコツ
そのための方法はこの3つ。
- あなた自身がWRAPを作って実践したり、WRAPクラスに参加してみる。
- 実体験してみて感じたことを本人に伝えてみる。
- 本人が興味を示したら、もう少しWRAPについてお伝えしてみる。
それぞれ事例を交えて、お話しさせていただきますね。
あなた自身がWRAPを作って実践したり、WRAPクラスに参加してみる。
まず、あなた自身がWRAPを作って実践したり、WRAPクラスに参加してみてはいかがでしょうか。
WRAPの良さは
実際に自分が使ってみたり、
WRAPクラスに参加して他の人達と繋がってみることで、
じんわりと感じることができます。
WRAPのバイブルと言われている赤本などを参考にしてもいいし、このサイトを参考にしていただいてもかまいません。
作り方に正解はありませんので、自分なりになんとなーく作ってみて、使ってみても良いですよね。
WRAPクラスは、ご自身の住まいの近くで開催されているクラスにふらっと参加してみてはいかがでしょうか?
「オープン」といって誰でも気軽に参加できるクラスもあれば、特定の参加者しか参加できないクラスもあります。
もし心配でしたら主催者の人に電話したり聞いてみるのもいいかもしれません。
きっと、WRAPと繋がりたい!というあなたの思いは相手の方に届くはず。
実体験してみて感じたことを本人に伝えてみる。
自分でWRAPを作ってそれを実行してみたり、WRAPクラスに参加してみたりして、どんなことを感じましたでしょうか?
- 感じたこと
- 学んだこと
- 取り入れたいと思ったこと
- 取り組んでいる事
- 実際に変わったこと
あなたがWRAPと関わることで、きっとあなたの中にWRAPとのつながりが何かしら起きたはず。
そういったあなたの体験にもとづいた思いやストーリーを、お話してみてはいかがでしょうか。
例えば私の場合、
はじめてWRAPクラスに参加してみて感じたのは
「私は私のままでいい。このままでも誰かの役に立てていることがある」
ということ。
その時のWRAPクラスのテーマは
「希望の感覚」と「いいかんじのとき(日常生活管理プラン)」
希望の感覚について発表し合っている時、私が発言したことについて、とある方が
「その感覚いいね」
と言葉をくださりました。
その時、
私としては自分にとって当たり前の感覚を言ったつもりでした。
他の人も同じような感覚があるもんだろう、と。
でも、その人にとってはそれが新鮮で、取り入れたいと思ってくださったらしいのです。
特別な能力とかスキルがなくても、ただ「生きている」というだけで、私たちは様々な工夫をして生活しています。
- カーテンを開けて寝る。
(朝日のまぶしさで目覚められる) - お弁当のおかずを冷凍庫に入れておく。
(寝坊してもなんとかなる) - お財布の中には1万円札を1枚入れておく。
(1000円札だとあると使っちゃう。万札は使いにくい気がする) - 時々部屋の窓をあけて空気を入れ替える。
(ちょっときもちがすっきりする) - スーパーには20時以降に行く
(惣菜が値引きされている)
自分にとっては当たり前の事でも、他の人にとっては『新しい気付き』だったり『思い出せるきっかけ』になったりするんですよね。
このように、あなたがWRAPクラスに参加してみて感じた事とか、WRAPを実践してみて思ったこととか話してみると、お相手の方も「へぇーそんなのもあるのね」と感じられるかもしれません。
ただし、WRAPについて相手の方に伝える時に気をつけた方が良いポイントは
「あなたがWRAPをやらないなんてありえない」という気持ちは持たないこと。
「私にとってはWRAPって良いと感じていて、あなたにもいいかもと思ったの。興味あったらどう?」
という気楽さ。
やるかどうかの判断は、相手次第。
無理強いはしない。
相手の状況を否定しない。
大丈夫。
きっと大丈夫。
人は、必ず良い方向に進みたいという本能を持っています。
今動くことができなくても、いつか、そのタイミングがきます。
人間は、しあわせになるために生まれてくる。
そして、誰かをしあわせにするために生まれてくる。
タイミングを待つってもどかしいけれども、
相手を信じて
自分を信じて
温かい目でそっと見守っておりましょ。
本人が興味を示されたら、もう少しWRAPについて紹介する。
あなたが自分の体験談についてお話ししたとき、もしお相手の方が興味を示されたら、もう少しだけ詳しく紹介してあげましょう。
このときも
- 「WRAPをやらないあなたなんて、ありえない」
- 「WRAPをやるべきだ」
という思いはどっかにぽいっ捨てて、
- 「必要に応じて、あなたのお役に立てたらいいな」
っていうくらいの気持ち。
WRAPの作り方をお話してみてもいいし、あなたのWRAPを見せてあげてもいいかもしれません。
わたしなら、自分が信頼できるWRAPクラスに誘ってみたり、本を読むことが好きな人なら本を紹介してみたりします。
このときもポイントは無理強いしないこと。
ひとにはひとのタイミングがあります。
外側の人間がちょっとしたきっかけをつくってあげることはできるかもしれませんが、決めるのはご本人。
大切な人だからこそ、待っているのは心苦しいかもしれませんが、是非、相手の方を信じて、その時を待ってるよ、とゆったりとした気持ちでいたいものです。
そして、必要であれば、いつでも助けたいと思ってるよ、とさりげなく伝えていきたいですね。
さいごに
今回は、身近な人にWRAPを進める際に気をつけると良いポイントについてお話ししました。
大切な人だからこそ、元気でいて欲しい!と相手を思う気持ちは素敵ですよね。
だからこそ、ぜひ相手を信頼して、来るべく時にそっと手を差し伸べられるようタイミングを待てたらいいな、と思っています。
そのために、ぜひ自分自身のケアも日々意識していきましょう!
最後までご覧いただきありがとうございました!